栃木県の奥日光、男体山のふもとに、中禅寺湖は静かに広がっています。標高はおよそ1,269メートル、周囲は約25キロ、いちばん深いところで水深163メートル。日本でも指折りの高さにある、大きな湖です。
標高1,269メートルと言われても、なかなか実感が湧かないかもしれません。たとえば高尾山が599メートルですから、高尾山を二つ積み重ねても、中禅寺湖の高さには届きません。山の上の湖、というより、山と肩を並べる高さにある湖です。
男体山が生んだ、せき止め湖
この湖は、はじめからここにあったわけではありません。およそ2万年前、男体山の噴火で流れ出た溶岩が渓谷をせき止め、そこに水が満ちてできた「せき止め湖」です。火山がつくった器に、長い時間をかけて水がたまっていった——そう思って眺めると、目の前の水面が、少し違って見えてきます。
そして、湖からあふれた水が流れ落ちるのが、あの華厳ノ滝です。山が生んだ湖が、滝となってふたたび山を下っていく。地形のつながりで眺めると、奥日光という土地の成り立ちが伝わってきます。
「日本一高い湖」と言っていいの?
中禅寺湖は、しばしば「天空の湖」と呼ばれます。それでは「日本一標高が高い湖」と言い切ってよいのか。ここは、条件を添えてお伝えするのが正確です。栃木県の紹介では、「人造湖を含まない・面積4平方キロメートル以上の湖」のなかで日本一、とされています。ダム湖などを除いた、大きな自然の湖のなかで、という但し書きが付くのですね。日光市の公式観光サイトでも「日本屈指の高さにある湖」という表現です。私たちも、この控えめな言い方が、いちばん誠実だと感じています。
「天空の湖」は、ほかにもある
じつは「天空の湖」という呼び名は、中禅寺湖だけのものではありません。高いところにある湖は、各地で同じように呼ばれています。たとえば群馬県の野反湖は、標高1,513メートル。中禅寺湖よりも高い場所にありますが、こちらはダムでせき止めた人造湖です。さらに高いところでは、御嶽山の山頂近くにある二ノ池が標高2,905メートルと、日本でいちばん高い湖。ただし、これは火口にできた小さな池です。
こうして並べてみると、中禅寺湖の個性がはっきりしてきます。人の手が加わっていない自然の湖で、しかも周囲25キロという大きさをたたえて、この高さにある。だからこそ、先ほどの「人造湖を除く・面積4平方キロメートル以上」という条件のなかで、日本一になるわけです。高さを競うだけなら上はありますが、「大きな自然の湖が、雲の近くに静かに横たわっている」という景色は、そう多くありません。
標高が高い、ということは
高い場所にある湖の、いちばん分かりやすい恵みは、涼しさです。奥日光の8月は、日最高気温の平年値でも22.9度(気象庁・奥日光、1991〜2020年の平年値)。首都圏が猛暑に見舞われる日でも、ここでは半袖だと少し肌寒いくらいです。明治の頃から外国人の避暑地として愛されてきたのも、この気候があってこそでした。
その湖を、水面から
中禅寺湖とは、おおよそこのような湖です。最後に、ひとつだけ。
この高さの、この静けさをたたえた湖は、岸から眺めるのもよいのですが、自分の漕いだ一漕ぎで水の上に出てみると、見える景色が大きく変わります。男体山を真下から見上げる角度。エンジンの音のしない、水の音だけの時間。BONFIREのツアーは少人数制で、写真はすべて無料でお渡ししています。4歳から80代まで、初めての方がほとんどです。
天空の湖を、水面の高さで。気が向いたら、のぞいてみてください。