夏の青空と雲、山並みを背にした戦場ヶ原の広大な湿原(奥日光)

Okunikko — Senjogahara

穏やかに広がる、空の広い高原湿原。
でもその名の由来には、神々が竜と大ムカデになって戦った、という壮大な伝説が残されています。

中禅寺湖の北に、標高約1,400メートルの広大な湿原が広がります。それが戦場ヶ原(せんじょうがはら)。木道を歩けば、男体山(なんたいさん)を背に、どこまでも続く草原と空。とても穏やかな場所なのに、「戦場」という勇ましい名前——その由来には諸説あり、なかでもよく知られるのが、この一帯の地名をいくつも生んだ、神話の物語です。そして夜には、関東屈指ともいわれる満天の星。中禅寺湖でガイドをする私たちが、名前のひみつから湿原の値打ち、季節の見どころ、星空まで、ご案内します。

夏の青空と山並みを背にした戦場ヶ原の広大な高原湿原。木道が続く奥日光
戦場ヶ原 ── 標高約1,400m、男体山を背にした空の広い湿原。

01 ABOUT

戦場ヶ原とは ── かつて湖だった、空の広い湿原

戦場ヶ原は、中禅寺湖の北に広がる、標高約1,400メートルの高原湿原です。その広さは約400ヘクタール。東京ディズニーリゾートおよそ4個分というから、ちょっと想像がつかないほどの大きさです。木道がよく整備されていて、湿原を傷つけることなく、まんなかをのんびり歩いて抜けられます。さえぎるものがないので、晴れた日には男体山の堂々とした姿が、湿原のむこうに大きく望めます。

1,400m

標高(高原)

400ha

湿原の広さ

350

自生する植物

※ 規模・植物の種数は日光市の観光案内などによる。じつは戦場ヶ原は、その昔ほんとうに「湖」でした。約2万年前、男体山の噴火で流れ出た溶岩が川(湯川)をせき止め、大きな湖をつくります。やがてそこに土砂や枯れた植物が積もり、冷たい気候のもとで少しずつ泥炭(でいたん)に変わって、いまの湿原になりました。溶岩が川をせき止めて中禅寺湖を生み、その同じ溶岩の坂を竜頭の滝が下る——戦場ヶ原もまた、男体山の火山活動が生んだ、ひとつながりの地形なんです。

02 LEGEND

なぜ「戦場」? ── 諸説あるなかの、いちばんの言い伝え

こんなに穏やかな場所が、どうして「戦場」なのでしょう。じつは名前の由来ははっきりとは分かっておらず、いくつかの説があります。なかでもいちばんよく知られ、語り継がれてきたのが、奥日光に古くから伝わる、ふたつの山の神さまの戦いの物語です。男体山の神と、群馬・赤城山(あかぎさん)の神。二柱の神が、この美しい中禅寺湖を自分のものにしようと争い、ついには、男体山の神が大蛇(おろち)に、赤城山の神が大ムカデに姿を変えて、激しくぶつかった——その戦いがくり広げられた広い野原こそ、いまの戦場ヶ原なのだといわれています。

苦戦する男体山の神を救ったのが、弓の名人・猿麻呂(さるまろ)。放った矢が大ムカデの左目をみごとに射抜き、大ムカデは退散。男体山の神が勝利をおさめた、と語り継がれています。いっぽうで、「広い原っぱ=千畳(せんじょう)ヶ原がなまったもの」という、ぐっと現実的な見方もあります。どれが本当のところかは、わかりません。それでも——空の広いこの湿原に立つと、つい神々の壮大な物語のほうを信じたくなる。それくらい、ここには物語が似合うんです。

そしてこの言い伝えは ── いまも周りの「地名」に、残っているといわれます。

戦場ヶ原
神々が戦った、その戦いの場所。
赤沼あかぬま
傷ついた大ムカデの血が落ち、沼の水が赤く染まったところ。いまは湿原ハイキングの拠点です。
菖蒲ヶ浜しょうぶがはま
勝負が決まった「勝負ヶ浜」が、いつしか菖蒲ヶ浜に。私たちの集合場所から、1kmほどの近くにある浜です。
歌ヶ浜うたがはま
猿麻呂が勝利を喜び、歌い踊ったと伝わるところ(立木観音のあたり)。

※ 地名の由来はいずれも言い伝えによるもので、諸説あります。

なかでもおもしろいのが、菖蒲ヶ浜。神々の勝負が決まった「勝負ヶ浜」がなまったもの、と伝わる浜で、私たちが漕ぎ出す中禅寺湖畔のボートハウスから、1kmほどの近くにあります。神話の決着の地のすぐそばから、いまは私たちが、その湖へ漕ぎ出していく。地名の物語を知ってから湖に立つと、いつもの景色が、ちょっと特別に見えてきます。

03 NATURE

ラムサール条約の湿原という、ほんとうの値打ち

戦場ヶ原は、ただ広いだけの草原ではありません。湯ノ湖・湯川・小田代原(おじろがはら)とともに「奥日光の湿原」として、2005年にラムサール条約に登録された、世界が認める貴重な湿地なんです。ラムサール条約とは、水鳥をはじめ多くの生きものを育む大切な湿地を、国境をこえて守っていこう、という国際的な約束のこと。戦場ヶ原は、そのなかでも本州を代表する高層湿原のひとつです。

この湿原には、なんと350種にもおよぶ植物が自生し、湿った草原を好む野鳥たちのすみかにもなっています。バードウォッチャーにとっては、それはもう憧れの地。木道は、そんなかけがえのない自然に、私たちがそっとお邪魔させてもらうための道でもあります。植物を踏まない、ゴミは持ち帰る、生きものはそっと見守る——歩くときは、この約束だけ、心にとめておいてくださいね。

04 SEASON

四季の戦場ヶ原 ── 花、緑、そして黄金色

戦場ヶ原は、季節ごとにまるで違う表情を見せてくれます。初夏は、いちばん花がにぎやかな時季。6月ごろには白い小花をいっぱいにつけるズミが、そして6月中旬から8月の初めにかけては、綿あめのような白い穂をゆらすワタスゲと、ピンクの群れをつくるホザキシモツケが、湿原を彩ります。私たちのカヤックシーズンとちょうど重なる、いちばん華やかな戦場ヶ原です。

そして秋。木々が色づくよりひと足早く、湿原の草が一面、黄金色に染まる「草紅葉(くさもみじ)」がはじまります。見頃は例年9月下旬から10月上旬ごろ。続いて10月の中旬から下旬には、まわりのカラマツやミズナラが赤や黄に燃え、湿原と山が二段重ねの紅葉になります。冬は雪に覆われ、スノーシューで真っ白な原を歩く——静けさの底に沈んだ戦場ヶ原も、また格別です。

Guide's note ── いちばんのおすすめは、朝

どの季節も、戦場ヶ原は朝がいちばん。空気が澄んで男体山がくっきり見え、野鳥もよく動き、運がよければ湿原に朝もやが立ちこめます。とくに紅葉の時季は、いろは坂が大渋滞に。ふだん5分の道に1時間かかることもあるので、「早め早めの行動」がガイドの鉄則です。湖あそびと組み合わせるなら、渋滞の前に動けるご来光カヤックツアーから一日を始めて、そのまま戦場ヶ原へ——というのが、贅沢でいて、いちばん賢い回り方です。夜明けの奥日光は冷え込むので、防寒だけはお忘れなく。

05 STARS

夜は、満天の星 ── 関東屈指の星空

戦場ヶ原のもうひとつの顔は、夜にあらわれます。標高約1,400メートル、まわりに高い建物も街明かりもなく、空をさえぎるものが何もない——この湿原は、日光市の公式観光サイトも「関東屈指の星空スポット」と呼ぶ、知る人ぞ知る天体観測の名所なんです。空気の澄んだ夜には、天の川がくっきりと見えるほど。なかでも三本松(さんぼんまつ)の駐車場あたりは、星空ファンや天体写真家にも人気の場所です。

そして夏は、流星群の季節でもあります。例年7月の末ごろにはみずがめ座δ(デルタ)南流星群が、8月の中旬には夏いちばんのペルセウス座流星群がピークを迎えます。とくに2026年のペルセウス座流星群は、極大の8月13日が新月にあたり、月明かりにじゃまされない当たり年。国立天文台によれば、12日の夜から13日の明け方にかけてが見頃で、空の条件がよければ、1時間に30個ほどの流れ星が期待できるそうです。

Guide's note ── 星空から、夜明けへ

夜の戦場ヶ原は、ほんとうに真っ暗。だからこそ星は美しいのですが、足元や野生動物には十分にご注意を。明かりと防寒をしっかり、無理のない範囲で楽しんでください。そして奥日光は、星空から夜明けへと移ろう時間が、いちばん特別。湖の上でその瞬間を過ごすなら、最後の星がすうっと消えていくなかを漕ぎ出すご来光カヤックツアーを、ぜひ。夜空と朝陽を、ひと続きで味わえます。

06 WALK

歩き通さなくて、いい ── 1時間でも、半日でも

「戦場ヶ原ハイキング」と聞くと、何キロも歩く本格的なコースを思い浮かべるかもしれません。でも、ご安心を。戦場ヶ原は、どこから入っても、好きなところで引き返していいのが、いいところ。木道のまんなかにある赤沼(あかぬま)や、いちばん広い駐車場のある三本松から、サッと湿原に入って、30分〜1時間ほど歩くだけでも、空の広さと男体山の眺めは、じゅうぶんに味わえます。三本松には、湿原を見晴らす戦場ヶ原展望台もあります。

戦場ヶ原は、二つの名瀑にはさまれた湿原でもあります。北の湯滝(ゆだき)から下ってくるコースは、ゆるやかな下り基調で初心者にやさしい王道ルート。南の竜頭の滝(りゅうずのたき)からは、滝沿いを登って湿原へ。湯滝から赤沼まで歩き通す“縦断コース”のくわしい歩き方は、湯滝のガイド記事でご紹介しています。体力や時間にあわせて、無理なく、自分のペースで。それが、戦場ヶ原のいちばんの楽しみ方です。

07 STREAM

あなたが漕ぐ湖は、戦場ヶ原を流れてきた水

奥日光の水は、ひとつながりです。湯ノ湖から落ちた湯滝の水が、この戦場ヶ原をゆっくりと横切る「湯川(ゆかわ)」になり、竜頭の滝を駆け下りて、最後に中禅寺湖へと注ぎ込みます。つまり——あなたが中禅寺湖でカヤックを浮かべる、その水面の水は、つい先ほどまで戦場ヶ原を流れていた水なんです。

湯ノ湖 湯滝 戦場ヶ原 竜頭の滝 中禅寺湖

竜頭の滝を上から見下ろした渓流。戦場ヶ原を流れてきた水が中禅寺湖へ向かう
戦場ヶ原を流れた水は、竜頭の滝を下り、中禅寺湖へ。

その水が注ぎ込む中禅寺湖を、私たちは菖蒲ヶ浜のすぐ近く、湖畔のボートハウスから漕ぎ出していきます。湿原を歩いてから湖を漕ぐ。あるいは、漕いだあとに「この水が、あの広い原を流れてきたのか」と思いをはせる。どちらの順番でも、奥日光の“水と物語のつながり”を、体ごと感じられます。戦場ヶ原は、歩いて楽しむ場所であると同時に、あなたのカヤックの一日と、地名でも水でもつながっている場所なんです。

08 ACCESS

アクセス・駐車場

  • 車:日光宇都宮道路・清滝ICから国道120号(いろは坂)を上り、中禅寺湖畔から戦場ヶ原方面へ。清滝ICからおよそ35〜40分です。三本松園地駐車場(約200台)赤沼駐車場(約160台)があり、どちらも無料。紅葉の時期はいろは坂・周辺道路が大変混み合うので、午前の早い時間がおすすめです。
  • バス:JR・東武日光駅から東武バスの湯元温泉行きで「三本松」または「赤沼」下車、徒歩すぐ。日光駅からおよそ70分です。交通系ICカード(PASMO・Suicaなど)も使えます。本数が限られるので、最新の時刻表は東武バス日光でご確認ください。
  • カヤックとあわせて:戦場ヶ原は、私たちの集合場所(中禅寺湖畔のボートハウス)から、車で15分ほど。午前にカヤックを楽しんで、午後に湿原を歩く——という回り方が王道です。
  • 冬のご注意:標高が高く、冬季はいろは坂が凍結・積雪し、木道も雪に覆われます。お出かけ前に道路情報の確認と、雪道の装備を。

09 FAQ

よくあるご質問

Q.戦場ヶ原は、どのくらい歩きますか?

歩き通す必要はありません。赤沼や三本松から30分〜1時間ほど木道を歩くだけでも、空の広さと男体山の眺めはじゅうぶん楽しめます。湯滝から赤沼まで湿原を縦断するコースは約5キロ・2時間半〜3時間ほど。くわしい歩き方は湯滝のガイド記事でご紹介しています。よく整備された木道で、歩きやすい靴ならどなたでも歩けます。

Q.花や草紅葉の見頃はいつですか?

ズミは6月ごろ、ワタスゲとホザキシモツケは6月中旬〜8月上旬が見頃です。草が一面黄金色に染まる「草紅葉」は9月下旬〜10月上旬、まわりの木々(カラマツなど)の紅葉は10月中旬〜下旬ごろ。とくに紅葉時期はいろは坂が大渋滞になるので、渋滞の前に動けるご来光カヤックツアーから一日を始めるのが、ガイドのいちばんのおすすめです。

Q.星空もきれいと聞きました。流星群は見られますか?

はい。戦場ヶ原は「関東屈指の星空スポット」といわれ、空気の澄んだ夜には天の川も見えます。三本松の駐車場あたりが人気です。流星群は、例年7月末のみずがめ座δ南流星群、8月中旬のペルセウス座流星群が見頃。とくに2026年のペルセウス座は新月と重なる当たり年です。夜は真っ暗で冷え込むので、明かりと防寒、安全への配慮をお忘れなく。

Q.カヤックと戦場ヶ原、両方できますか?

できます。集合場所の中禅寺湖畔のボートハウスから戦場ヶ原までは車で15分ほど。午前にカヤックを楽しんで、午後に湿原や滝をめぐるのが王道です。回り方は午前・午後 王道モデルコースでくわしくご紹介しています。

穏やかな湿原に立つと、神々の戦いの言い伝えが、ふっと近くなる。夜には満天の星が広がり、その物語の決着の地のそばから、あなたは湖へ漕ぎ出していく——戦場ヶ原は、奥日光の自然と歴史が、いちばん深く重なる場所です。次に中禅寺湖へ来たら、ぜひ、空の広いこの原まで足をのばしてみてください。

新緑の中禅寺湖をカヤックで漕ぐツアーの様子。湖畔のボートハウスから漕ぎ出す
神々が勝負を決した浜のすぐ近くから、いまは湖へ漕ぎ出す。

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